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給与明細に「教職調整額」という行があります。毎月見ているのに、その意味を考えたことはないかもしれません。
結論からお伝えします。公立学校の教員に残業代は出ません。代わりに給料月額の数%が、残業の有無にかかわらず一律で支給されます。それが教職調整額です。そして、その割合の根拠は60年前の調査にあります。
- 残業代が出ない法律上の理由
- 教職調整額4%の根拠
- 2026年に始まった引き上げの中身
- 自分の時間単価の出し方
悩む先生


私は高校で保健体育を教えていた元教員です。在職中はこの仕組みを知らないまま働いていました。計算してみたのは、辞めるかどうかを迷っていた時期です。
教職調整額の割合や支給の扱いは、各自治体の条例で定められます。この記事の数字は法律と報道で確認できた一般的な内容です。自分の支給額は、必ず給与明細と勤務先の事務室で確認してください。
教員に残業代が出ない理由


残業代が出ないのは、学校の都合や校長の判断ではありません。法律でそう決まっています。給特法という法律が、教員には時間外勤務手当を支給しないと定めているからです。まずはこの法律が何を決めているのかを押さえてください。仕組みを知らないまま不満だけを抱えると、自分が悪いのだと思い込んでしまいます。
給特法という法律の中身
給特法の第3条第2項に「時間外勤務手当及び休日勤務手当は支給しない」と明記されています。解釈の余地はありません。
正式な名前は「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」です。1971年にできた法律で、公立学校の教員が対象になります。
その代わりとして、給料月額に一定の割合をかけた教職調整額が支給されます。働いた時間とは連動しません。残業ゼロの月も、80時間の月も、同じ金額です。
超勤4項目という4つの例外
給特法では、教員に時間外勤務を命じないことが原則とされています。命じられるのは、次の4つの場合だけです。これを超勤4項目と呼びます。
- 生徒の実習に関する業務
- 学校行事に関する業務
- 職員会議に関する業務
- 非常災害など緊急の場合の業務
この4つに入らない仕事は、制度のうえでは「命じられた仕事」ではありません。教員が自分の判断でやっている業務、という扱いになります。
部活動が残業にならない仕組み
部活動は超勤4項目に入っていません。土日に8時間引率しても、制度上は命じられた時間外勤務ではないことになります。
この点は、部活動の顧問を断れるのかという話にも直結します。くわしくは部活顧問を辞めたい教員が知るべき法律と方法にまとめました。
テストの採点、保護者への連絡、教材の準備も同じ扱いです。学校の仕事のほとんどが、制度の上では自発的な行為に分類されています。
教職調整額4%の正体


ではなぜ4%なのか。ここが、この制度のいちばん大事な部分です。4%という数字には根拠があります。ただしその根拠は、いまの学校を見て決められたものではありません。半世紀以上前の調査結果です。この前提を知ると、なぜ給与と働き方が噛み合わないのかがはっきりします。
根拠は1966年の調査
4%の根拠は、昭和41年度に文部省が行った勤務状況の実態調査です。そこで出た数字が、教員の超過勤務は1か月あたり約8時間というものでした。
その8時間分の給与に相当する割合として、4%が設定されました。給特法ができたのが1971年ですから、制度の土台は60年前の学校の姿です。
当時はまだ、部活動も保護者対応も、いまほどの量ではありませんでした。4%は、その時代には妥当な数字だったのかもしれません。
前提は残業月8時間
つまり給与の仕組みは、いまも「教員の残業は月8時間」という前提で動いています。1日あたり24分です。
自分の1日を思い出してみてください。定時に職員室を出られた日が、1か月のうちに何日あったでしょうか。
給与制度が想定している残業:月8時間(1日24分)
多くの先生が実際にしている残業:月数十時間
50年変わらなかった割合
4%という割合は、制度ができてから50年以上、一度も変わりませんでした。学校の仕事は増え続けたのに、根拠となる数字だけが止まっていました。
それがようやく動き始めたのが、2026年です。
2026年に始まった5%への引き上げ


2025年6月、給特法を改正する法律が成立しました。これによって教職調整額の引き上げが決まり、2026年1月から実施されています。良いニュースです。ただし、上がり方と上がる幅を知っておく必要があります。期待していた額とは違うかもしれません。ここでは具体的な金額で確認します。
毎年1ポイントずつ10%へ
2026年1月に4%から5%へ上がりました。その後も毎年1ポイントずつ引き上げられ、2031年1月に10%になる計画です。
- 2025年12月まで:4%
- 2026年1月:5%
- 以降は毎年1ポイントずつ
- 2031年1月:10%
5年かけて、ようやく倍になります。残業代が出る仕組みに変わるわけではありません。一律支給という形はそのままです。
月給40万円の場合の増え方
給料月額が40万円の人を例にします。4%なら16,000円、5%なら20,000円です。増えた額は月4,000円です。
10%になる2031年には40,000円になります。いまより24,000円増えますが、そこまで5年かかります。
自分の額を知りたい場合は、給与明細の給料月額に0.05をかけてください。それが現在の教職調整額です。
ボーナスと退職金への反映
ここは見落としやすい点です。教職調整額は本給と同じ扱いになります。
文部科学省の資料では、期末手当や勤勉手当、地域手当、退職手当などの算定の基礎に含まれるとされています。つまり、月4,000円の増加はボーナスにも少し乗ります。
そこは素直に良い点だと思います。ただ、それで働き方の問題が解決するかというと、別の話になります。
5%に上がっても残る問題


引き上げは前進です。しかし、仕組みの根っこは変わっていません。残業代が出ないという点はそのままで、割合だけが動きました。ここを冷静に見ておかないと、数年後に同じ場所で同じ悩みを抱えることになります。自分の数字で確かめてみてください。
残業そのものは減らない
教職調整額が上がっても、仕事の量が減るわけではありません。手当の割合と業務量は、直接つながっていません。
改正では、教育委員会に対して業務量を適切に管理し、教員の健康と福祉を確保するための計画をつくって公表する義務も加えられました。2026年度から始まる取り組みです。効果が出るかは、これから見ていくことになります。
自分の時間単価の出し方
教職調整額を、自分の残業時間で割ってみてください。これが、残業1時間あたりに支払われている金額です。
給料月額40万円・残業月80時間の場合
20,000円 ÷ 80時間 = 1時間あたり250円
10%になる2031年でも
40,000円 ÷ 80時間 = 1時間あたり500円
残業時間は人によって違います。自分の出退勤の記録を見て、自分の数字で計算してみてください。
10%でも前提は月16時間
4%が月8時間分なら、10%は月16時間分です。1日あたり48分です。
2031年に引き上げが完了しても、制度が想定する残業は1日48分のままです。実態との差は、埋まりません。
自分の時間単価を出したあとは、学校の外の相場も見てみてください。残業代が時間どおりに出る会社では、同じ1時間がいくらになるのか。求人を眺めるだけの利用もできます。辞めると決めていなくても相談できます。
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残業代ゼロの前提で私が決めたこと


ここからは私の話です。在職中、私はこの計算をしませんでした。忙しすぎて、自分の給与の仕組みを調べる時間すら惜しかったからです。実際に計算したのは、辞めるかどうかで数年迷っていた時期でした。その数字が、最後の判断材料になりました。
計算して固まった手
電卓で割り算をして、しばらく動けませんでした。数字そのものに驚いたというより、自分がその金額に納得して働いてきた事実に驚きました。
給料が安いと思っていたわけではありません。月々の額だけを見れば、同世代より恵まれているほうでした。
問題は、働く時間を増やしても、その分は一円も増えないという構造でした。頑張りと収入が、最初から切り離されていました。
判断に使った基準
私が最後に自分に問いかけたのは、給料の額ではありませんでした。この構造のまま、あと30年続けられるかという一点でした。
残業代が出ないこと自体は、辞める理由にはなりません。それを承知で選んだ仕事だからです。
ただ、仕事が増え続ける一方で、仕組みが変わる気配がないという状況は別でした。制度が自分を守ってくれる前提では考えられない、と判断しました。
辞めてから変わった感覚
民間に移って最初に驚いたのは、残業を申請する書類があったことです。働いた時間が記録され、その分が給与に反映されました。
収入が増えたから良かった、という話ではありません。実際、転職直後の年収は下がりました。そのあたりは教員を辞めて後悔したこと3つとよかったこと3つに正直に書いています。
変わったのは、時間の感覚でした。自分の時間に値段がついている状態は、思っていた以上に心を軽くしました。
教員の残業代によくある質問


残業代の話になると、同じ疑問が繰り返し出てきます。ここでは特に多いものを5つ取り上げます。制度の細かい部分は自治体によって違うため、最後は必ず勤務先で確認してください。
私立の教員も残業代は出ないのか
給特法は公立学校の教員を対象にした法律です。私立学校の教員には適用されません。
そのため私立では、一般の会社と同じく労働基準法にもとづいて残業代が支払われるのが原則になります。ただし運用は学校ごとに違うので、求人票や就業規則で確認が必要です。
残業代を請求した裁判の結果
埼玉県の公立小学校の教員が、未払いの残業代を県に請求した裁判があります。一審では請求が退けられた一方で、業務の一部は労働基準法上の労働に当たると認定されました。
その後、2022年8月に東京高裁で請求が棄却され、2023年3月に最高裁で上告が棄却されて教員側の敗訴が確定しました。現状、個人で残業代を請求して勝つのは難しいと考えておくほうが現実的です。
教職調整額はボーナスに反映されるのか
反映されます。教職調整額は本給と同じ扱いになり、期末手当や勤勉手当、退職手当などの算定の基礎に含まれるとされています。
金額の計算方法は自治体の条例で決まります。正確な額は給与明細と事務室で確認してください。
引き上げは全員が対象なのか
教職調整額は、給特法の対象となる公立学校の教育職員に支給されるものです。実際の支給は各自治体の条例にもとづきます。
自分が対象かどうか、いつから何%になっているかは、給与明細を見ればわかります。「教職調整額」という項目があり、その額を給料月額で割れば割合が出ます。
自分の残業時間を確認する方法
いまはほとんどの学校で、出退勤の時刻が記録されています。タイムカードや校務支援システムに残っているはずです。
自分の記録は事務室に問い合わせれば確認できます。感覚ではなく実際の数字を見ることが、時間単価の計算の出発点になります。
まとめ
公立学校の教員に残業代は出ません。代わりの教職調整額は、2026年1月から4%から5%になり、2031年に10%まで上がる計画です。前進ではありますが、残業代が出る仕組みに変わるわけではありません。
- 残業代が出ないのは給特法3条2項の定め
- 教職調整額4%の根拠は1966年の調査
- 前提は残業月8時間で1日24分
- 2026年1月から5%で毎年1ポイント上昇
- ボーナスと退職金にも反映される
- 残業1時間あたりの額は自分で計算できる
まずやってほしいのは、辞める決断ではありません。電卓を出して、教職調整額を自分の残業時間で割ってみることです。
その数字を見て納得できるなら、それでいいと思います。納得できなかったときに、はじめて外を見る意味が出てきます。
転職エージェントは、求人を見るだけでも使えます。残業代の支給条件や平均残業時間は、求人票に書かれていることが多いです。自分の時間単価と比べてみてください。
登録・相談は無料です。辞めると決めていなくても構いません。
学校を離れるかどうかの判断そのものに迷っている場合は、教員を辞めたいのは甘えなのかもあわせて読んでみてください。


